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周防大島町立東和中学校 校長 平野 忠彦
先月のある会において、平田教育長さんから滋賀県大津市に本社のある和菓子屋の「叶匠寿庵」についてのお話を聞く機会を得た。「叶匠寿庵」、私にとってなんと懐かしい響きか。思い返せば28年前、まだ20代で燃えることしか知らなかった富田中教員時代、Kさんから企業研修用で経営合理化協会から出されていたテープをいただいた。「先生、このテープには感謝と感動がつまっています。涙なくしては聞けません」。早速車の中で聞いてみたところまさにその通り、胸に深く響く思いが残った。
内容は「叶匠寿庵」創業者である芝田清次さんの生い立ちから企業経営理論に渡るものである。39歳までは大津市役所に勤務したものの、このまま公務員として生きていくことに疑問を感じ、心のこもった和菓子を作り人様に喜んでいただく人生を歩んだこと。お金がなく,妻や子どもたちに不自由をさせ苦しかった生活のこと。良い餡が炊けず,泣きながら餡を捨て悔しさに耐えきれなかったこと。雨の日も雪の日も円満院門跡の駐車場で観光バスの窓の下からお菓子を売り歩いたこと。ある日突然小さな店の前に立派な外車が止まり「実はな、このあいだ知人からあんたとこの最中をもろうてな。なんともいえん純な味わいに感心したんや。わしもこれ(奥様)もあの味が忘れられんようになってな」と言われて来店された伊藤忠の越後庄一会長の話。東洋レーヨンの記念式典用の羊羹受注に際して,個数5,700箱という数に対応しきれず断ろうとしたとき、中学校を卒業し、職人として働きながら定時制高校に通っていた3人の子どもたちが、「大将、やりまっひょう。学校には退学届けを出してきましたから・・・。」と言って小さな和菓子屋の人と人の心が一つになったこと。などなど。
昭和59年1月、私が監督で第4回全国都道府県対抗女子駅伝大会に出場したとき。京都の東山、哲学の道に叶匠寿庵の茶室があることを聞き、訪れた。時間は朝の9時前だった。小さな茶室の前で掃除をされていた老人に「叶匠寿庵さんはこちらでしょうか。実は,芝田清次さんの話をメンバーに話したところ,大変感動してくれました。どうしても叶匠寿庵さんのお菓子を駅伝メンバーに食べさせてやりたくて来ました。」と言うと「そうですか、開店は9時からですがどうぞどうぞ。」ということで茶室風の店に招き入れていただいた。適当においしそうなお菓子を選びレジに持って行くと、「当店のお菓子をお買い上げいただき有難うございます。でも今回はお代をいただくわけにはいきません。山口県から来られ、駅伝を通じてこうして出会いをいただいたことに感謝します。明日は選手の皆様の思いのこもった走りに期待します。このお菓子はぜひその思いのためのプレゼントです・・・。」
その後,芝田清次さんにお会いしたくてお店をたずねた時は、体調を崩されておられお会いできなかった。しかし、会社の末端まで芝田イズムが浸透している叶匠寿庵・芝田清次さんに頭が下がる。人と人の出会いとつながりは不思議なものである。しばらく忘れかけていた心の奥の思い出を教育長さんに再び気付かせていただいた。感謝(平成22年7月投稿)
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