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山口県立水産高等学校 校長 首藤 裕司
「大型船の船長、一等航海士、機関長、海猿のような海上保安官、しっかり稼げる漁師、魚のことにぶち詳しい調理師、…」
1学期に新入生との面談で生徒たちが答えた進路希望の一部です。本校に入学した多くの生徒に共通しているのは『海が好きだから』ということ。はっきりとした目標がないのかと思われる生徒もいますが、実習を中心とした授業や友人とのかかわり合いの中で、次第に進路が明確になっていきます。
本年度始めに、全国初の山口、福岡、長崎3県共同運航の実習船「海友丸」が就航しました。水産・海洋系高校では国内最大の実習船です。本校の特色のひとつに、この実習船を使ったハワイまでのマグロ延縄漁を主目的とした海洋技術科の航海実習があります。
船長をはじめ3県の乗組員は水産高校や水産大学校の卒業生が多く、漁業実習を通じて航海や機関等の船員になるための教育を行います。また、各県から2名の指導教官と呼ばれる教員も乗船し、クラス担任のような役割で生徒を指導します。
船という動く教室は、学校の教室とは全く異なる環境です。天候など人間の力の及ばない自然に大きく左右されるこの実習は、常に危険と隣り合わせであり、何が起きるか分かりません。実習船教育において大切な事は、生徒の安全を確保しつつ将来のスペシャリストを養成するわけですから、「返事がないぞ!」「しっかり確認せよ!」などと大きな声を出して厳しく指導することは欠かせません。その一方で、何十日間も一緒に生活する中で、お互いに心を開いて接することも時には必要であり、生徒と乗組員や教師との信頼感はより深まっていきます。
9月中旬にわずか3日間でしたが、長崎までの体験航海に本科1年生とともに乗船し、帰路はブリッジで夜間航行の様子を見学させてもらいました。当直の航海士が何隻ものイカ釣り船の間をレーダーで確認しながら、どのように航路を決めていくのかを分かりやすく親切に生徒たちに教えていました。わずかな時間でしたが、進路変更のため自動から手動に切り替えたばかりの舵を握った専攻科生の緊張した顔がとても印象的でした。
「遠洋航海実習では、釣り上げた自分の体より大きなマグロの姿、満天の星が輝く夜空、360°全てが海の上の朝焼け・夕焼けの美しさなど、普通の高校生が体験することのできない自然や漁業における多くの場面において、さまざまな感動をすることで生徒たちは大きく成長します。高校生らしくとても素直に目を輝かせてくれます。そして、不自由な船の中での生活や実習での達成感が一人ひとりの自信につながっていくのです。長い実習を終えて、海がもっと好きになっている。仲間を信じ、お互いを認め合うことができるようになっている。日焼けと共に精悍な顔つきになっている。そんな成長した生徒を見るのが好きで長い間実習船に乗り組んでいます。」
そう語ってくださったM船長とは、実習船教育から海や船の話に移っていき玄界灘の夜が更けていきました。
(平成22年10月投稿)
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