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防府市立右田中学校 校長 池本 慎吾
もう、20年近くも前になる。保護者のAさんが亡くなった。Aさんは、学校の給食補助員さんでもあり、いつも生徒たちに温かく接してくださっていた。突然の悲報に、ご家族、とりわけ中学生の娘さんの悲嘆は深かった。そして、学校も悲しみに包まれた。
午後から葬儀があるというその日の昼前、B君がやってきた。
「先生、おれ、腹が痛くて我慢できんけえ、早退してもええ?」
とてもつらそうな顔をしている。
B君はとても足が速く、ちょっぴりやんちゃな元気少年である。いつも給食の後の休み時間に給食室に行っては、「背が高くなるために……」などと言い、Aさんから残りの牛乳を分けてもらって飲んでいた。嬉しそうに牛乳を飲んでいるB君と、優しいまなざしでそれを見ているAさんの笑顔が目に浮かぶ。
その日の葬儀は、学校のすぐ近くが会場であり、当初、生徒は学級の代表2名が出席することになっていたが、再度教員の間で協議し、参列できる生徒の数を増やすこととした。
しめやかな葬儀の後、Aさんにお世話になったたくさんの生徒たちがAさんを見送った。当然、B君も一緒だった。
葬儀から学校に帰って、
「おまえ、腹が痛かったんじゃないんか?」とB君に何食わぬ顔で聞くと、
「先生、そねー言うちゃあいけんちゃ。」
にこにこっと笑顔を見せて、小走りで去っていった。
「おまえ、ええやつじゃのう。」と言いそびれた言葉が、いまだに胸に残っている。
(平成23年7月投稿)
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