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周南市立富田西小学校 校長 井上 成人
「今日も来てくれるだろうか?」と祈りつつプールへ向かう。
集まっている子どもたちの中から今年初めて顔つけができるようになった彼の顔を探す。
「いたっ!」
心の中で「よしっ!」とつぶやく。
夏休みのプール指導2日目のことである。
彼は今年の水泳の授業で、ゴーグルをつけてではあるが、初めて水に顔をつけることができた。その時彼は、未知の世界との出会いを「水の中はきれい。」という言葉で表現した。そして、初めて水に潜ったときは、「水の中でも音が聞こえる。」という新しい発見に驚くとともに、何度も潜って喜んでいた。
そして、夏休みのプール指導である。1日目は、だるま浮きで1秒間くらいプールの底から足を離すことができたが、大きな収穫はなかった。「明日は、浮かぶことができるようになろうね。」と言って別れたものの、収穫が少ないためか表情もさえなかったので、来てくれるかどうか心配だった。
2日目。彼は、だるま浮きに挑戦し、5秒間もできるようになった。それから伏し浮きの練習をした。彼は私の手を握り伏し浮きに挑戦した。何度か練習するうちに私の手を握る彼の手の力が次第に抜けてくるのが分かった。
頃合いを見て、「自分で先生の手をゆっくり放してごらん」と彼に大きな課題を投げかけた。すると、彼はなんと1回目でその課題をクリアした。その小さな手をパッと開いたのだ。その開いた手に彼の勇気と心の成長が表れていた。しかも、開いたまま3秒間我慢した。彼は、浮いた。生まれて初めて自分で浮いた。私は、「やったー。勇気を出したねー。浮けたねー」と思わず彼を抱き上げた。
そして3日目。6月には顔もつけられなかった彼が、バタ足で5m進んだ。少しはにかみながらではあるが、嬉しそうで得意げな彼の顔を見ながら、子どもの成長を、子どもや教職員、保護者とともに喜べる職であることのありがたさを感じた。
初めて浮いた時に開いた彼の小さな手が脳裏に強く焼き付いている。
(平成23年7月投稿)
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