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山口市立潟上中学校 校長 山本 惠子
15年くらい前、海外研修でヨーロッパに行ったことがある。不安と期待で降り立った所はロンドンだった。どこまでも続く煉瓦や石造りのアパート。それも同じ造りの棟がズラリと扉を並べている。苔が生え黒ずんだ石の建物は不思議な落ち着きと美しさで迫ってきた。日本の都会の四角いガラスの箱のような輝く高層ビル、モダンなデザインを競うような一戸建ての住宅街、どっちが“本物”だろうと思った。個性を尊重するという西洋でこんな画一的な外観を目にした時、個性を育んでくれる環境とはどんな環境だろうと考え込んでしまった。
次の驚きは、ルーヴル美術館に行った時だった。ミロのビーナスがむき出しといった感じで目の前に立っていた。厳重な鍵付きのガラスケースに入っているのではない。私はぐるりとその周りを回り後ろ姿も眺めた。手の届く石像から息遣いや温もりが伝わってくるようで、同じ空間に共に存在する感動を覚えた。思わず「これはレプリカですか」と私は尋ねた。「ここにあるものはすべて本物ですよ」と答えたガイドさんの微笑に耳の端が赤くなるのを覚えた。
しばらく行くと、床に座り込んでスケッチブックを広げている小学生くらいの子どもに出会った。よく見るとここ彼処に2・3人 、4・5人と同じ制服の子どもたちが静かにスケッチしている。見ると“モナリザ”や“民衆を率いる自由の女神”といった美術の教科書に出てくる名画の前だ。三々五々の観客も自然に彼らを避けて通る。子ども達も観客が前を通り過ぎるまで静かにペンを止めている。引率者らしき人と観客の区別がつかなかった。又しても“本物”とは、と考えさせられた。「本物の教育」「本物の個性を育む」とは、と考え続け、今だに模索している。
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