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平成21年 (2009年) 10月 22日

教育ちょっといい話 第48回

周防大島町立和田小学校 校長 田中 弘志

「3m〜30m〜300m〜の温かくさわやかな朝の始まり」

 

子どもたちは、学校近くの僅か道幅3mの町道を、毎朝明るく元気な声をかけながら横断してくる。新学期になって責任を感じて張り切っている登校班のリーダーHさん(4年生)は、その横断歩道で待っている私を30m先ぐらいから見るやいなや大声で

「お早うございま〜す。」と呼びかけてくる。残りの3人も班長に負けずに「お早うございま〜〜す。」と笑顔で呼びかけてくる。

私にとっては、新鮮で、素晴らしくさわやかな朝のスタートである。

横断歩道に整列すると

「サイン、右よし」

「左よし」

「右よし」

「渡るよー」

「左よーし」

「ありがとうございました。」

と、一緒に登校してくださった見守隊の方や私にお礼を言ってから校門の方へ入り姿が見えなくなる。

時には、彼女たちが横断歩道に立ち止まっている姿を見かけた近所に住んでおられるNさんは、30m先の子どもたちの姿を見られると、自分の車を止めてにこやかに

「さあ、渡りなさい」

という気持ちを込めて手で合図をされる。それでも彼女たちは、

「お先にどうぞ」

という気持ちを込めて眺めながら、ずうっと待ち続けている。そこで、私もNさんの温かい気持ちをいただこうと子どもたちに、先に渡らせてもらうように促す。その時にも驚いたことがある。今度は、親切な地域の方に迷惑をかけてはいけないと感じているHさんは、

「渡るよっーー」

と、急いで手を挙げてさっと横断をしてから、Nさんの方を向いてお礼を言うのである。先輩たちが実践してきている普段通りのことかもしれないが、こんな清々しい光景に久しぶりに出会うことができた。

また、横断歩道の手前300m付近で毎朝立ち番してくださる見守り隊のMさんたちは、いつも最後のグループが横断し終わるまで、じっーと見守ってくださっている。私は、大声で

「どうもー、ありがとうございましたあーー。」

「もういいですよっー」

と、お礼の言葉を叫びたいのだが、近所の皆さんの手前もある。

そこで、子どもたちを渡すための安全旗を大きく振って感謝の気持ちを表してみた。すると、負けずと300m先から旗を振り返してくださった。私は見守り隊の人たちへ気持ちが通じてうれしかったので、翌日からも同じようにしようと思っていた。

翌日、昨日に気分をよくした私が、最後の子どもたちが通り過ぎた頃を見計らって安全旗を振ろうと300m手前を見返した時、Mさんたちの方から先に安全旗を左右に大きく振られ、遠くでもあり、年老いて小さく見える体を真半分に折り曲げられていたのである。私も負けずに腰を折り曲げてお礼の気持ちを表した。

その日以来、出張等で立ち番できない日を除いて、毎日この温かくさわやかな朝の始まりが続いている。こんな素敵な学校・地域に赴任できたことに感謝しながら、その喜びと幸せをしみじみと感じているこの頃である。

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