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山口県立宇部総合支援学校 教頭 辻村 政志
「鳥越のバス停で降りた生徒さんに、“荷物を持ってあげましょう”と声をかけられ、途中まで持ってもらいました。
最近はこのような声をかけてくれる人がいないので、とっても嬉しかったので、先生からも褒めてあげてください。」
Iさんという男性からで、それ以上はおっしゃいませんでした。1月13日午後5時前、学校にかかってきた電話です。
地域の方から児童生徒がお褒めの言葉をいただくことほど、学校にとって嬉しいことはありませんが、Iさんからいただいたお電話にはそれ以上の感動を覚えました。
Iさんの本校生徒の言葉を受け止めていただいたお心の広さと、大切なお荷物をその生徒に預けられた勇気に感服しています。
学校教育に携わる身でありながらも、はたして私自身にIさんと同じような対応ができるでしょうか。自信がありません。昨今の少年犯罪から持ち逃げが脳裏を過ぎり、「ありがとう、でも大丈夫だから」に止まりそうな気がします。本校教員にとっても、生徒を信じ、生徒との信頼関係構築に努めるべき立場にあることを、改めて問い直す機会を与えていただきました。
当該生徒は、高等部のB君であることが分かりましたので、翌日の登校を待って本人に事実を確認しました。「持ってあげたよ、重たそうだったから」と、特段のことをしたという認識はありませんでした。いつもと変わりない受け答えでした。その流れのなかで、私の褒め言葉も「ようやったのう」の一言で終わってしまいました。Iさんの「褒めてあげてください」は、そうではないことを重々分かってはいたのですが。
困っている人を助けてあげたいという気持ちを言葉にできたことや、それを行動に移せたことなどを褒めたいと思っていましたが、B君と対面した場でそうすることの不自然さや無意味さを強く感じたことは確かです。
IさんとB君の出会いは偶然であり、そこでのやり取りは自然であったと思います。そのような人と人との触れ合いを、理屈をもって取り沙汰することには抵抗がありました。先のさりげない一言が、私にとって最も違和感のない褒め言葉でした。
B君は、一週間前に好ましくない行動で指導を受けていました。私も教頭の立場で指導にあたり、B君と幾つかの約束をしました。
私は、B君の「はい」という返事をしっかり受け止めていただろうかと、自省を促されました。
Iさんのお電話から、私自身の内心を問い質す示唆を得た思いがしています。
この度の見習うべきB君の行いは、日々の教育活動を通じて、多くの児童生徒に伝えられると思います。そのことで、Iさんのお気持ちにお応えができればと考えています。
末筆ながら紙面をお借りして、子どもに対する大人の接し方に範を示していただいたIさんに、心からお礼を申し上げます。
(平成20年度山口県立徳山総合支援学校 教頭)
電話:083-987-1220 ファックス: 083-987-1201
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