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岩国市立宇佐川小学校 校長 楠 裕之
小学生にサッカーを指導して20年以上になる。大雑把に計算して300人近い子どもたちとふれあってきただろうか。監督として直接指導したチームは、10を超え、それぞれに忘れ得ぬ楽しい思い出や悔しい思い出がある。その場面はほとんどが試合中のシーンであったり、試合後の様子であったりと、試合の勝敗に関わる場面であるが、一つだけちがった情景が今もはっきりと私の脳裏に浮かび上がる。
それは、悔しい負け方をした試合の2週間後、その相手チームの監督さんから話しかけられたシーンである。その監督さんは、私を見つけるなりニコニコしながらやって来られた。予選で優勝候補の我がチームを破って見事優勝した後だったのでお祝いを言おうとすると、私の言葉を遮るように話された。「おたくのチームの子どもたちは、本当に可愛いねえ。」 予期せぬ言葉にどう答えたらよいものかと困っている私に説明してくださった。
惜敗を喫した我がチームの子どもたちが、翌週に行われたその決勝トーナメントの試合に行き、自分たちの負けた相手を大きな声で一生懸命に応援したというのだ。監督さんは、子どもたちの名前を出しながら、交わした会話の内容まで話してくださり、「本当にいいチームですね。みんな素直な子どもたちだ。」と心からほめてくださった。それまで、それほど親しくしていたチームではないのになぜ。後で、子どもたちに事情を聞くと、自分たちが負けたのはなぜなのかを見つけたくて見に行き、やはり学ぶべきいいチームだったので、自然と応援したということだった。
私は、利害にとらわれることなく客観的に自分や周りを見る力、優れたものを素直に認める力、それらを大切に自立した人間づくりをめざして指導していたつもりであったが、子どもたちのこの行動は、まさに私に対する彼らの素直な答えであり、その後の私の指導法の大きな柱の一つとなった。そして、このことは私にとって忘れられない大切な思い出となった。
50歳をすぎ、思うように体は動かないが、機会があれば、もう一度子どもたちと一緒に汗を流しながら、あのときのような楽しい思い出を作ってみたいと思う。(平成21年7月投稿)
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