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山口市立井関小学校 校長 菅 栄子
「校長先生の名前なんか覚えられない!」と捨て台詞を残して目も合わさずに校長室を出て行ってしまった。転入初日の彼との出会い。
ところが数日後、彼の音楽の学習に付き添ってほしいと担任からお願いされた。初日は、教室内を走り回り音楽どころではなかった。鍵盤ハーモニカのケースを開けると、勝手に音を出して混乱させる。唄口を取り上げたり、取り返したりの二人の戦い。鍵盤から指が離れた瞬間を逃さず私が鍵盤を押さえて短い曲にした。すると「おれもうまく弾けるようになりたい!」と吐き出すように彼が言った。好きででたらめな音を出しているのではなく、曲が弾きたいのだ。できるようになりたい。それが彼の正直な気持ちなのだが、なかなか素直に表現できないのだろう。
学びたいという気持ちと学習内容がうまくかみ合った時にぐんと伸びる。音楽だけでなく算数だってできるようになればきっと授業が楽しくなる。できるようにしなければという教師魂は時として相手の気持ちと離れているのかもしれない。H君との出会いが「学ぶ・教える」という教育の原点を思い出させてくれた。
「先生抱っこ!」と甘えてくる彼だが、そんな時は思いっきり抱きしめてあげる。担任の厳しくて優しいところにはとても敵わないが、そのわずかな手伝いを私にもさせてもらっていると思うと嬉しくなる。
あれから数か月、だれもが彼の成長を認める。彼に教えられながらの私の成長はどうなっているのだろうか・・・? (平成21年8月投稿)
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