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宇部市立神原中学校 校長 津守 一郎
もうかなり前のことになります。
私のクラスにM君がいました。目立たない、どちらかといえば引っ込み思案な男子生徒でした。
ある日、朝早く教室に行ってみると、私のクラスだけが、机と椅子がきれいに揃っていました。最初は、当番が責任をもって仕事をしたのだろうと思っていましたが、次の日も、またその次の日も、線を引いて揃えたかのように、きちんと机と椅子が揃い、クラスの子どもたちを気持ちよく迎えていました。何日か経った頃から、今度は窓ガラスがぴかぴかに、さらに、自由箒などの掃除道具や道具入れが完璧に磨かれていきました。
放課後、そっと教室を覗いてみると、M君が一人黙々と自由箒に付着したゴミをピンセットで一つひとつ取り除いていました。これまでの行為は全てM君だったことを確認し、感謝を伝え、クラスのみんなに紹介したいと言った私をじっと見つめて、M君は、こう言ったのです。「先生、誰にも言わないでください。僕は、みんなに認められ、ほめられるためにやっているのではありません。僕がクラスのためにできることはこれぐらいしかないのです。黙っていてください。お願いします。」
私は、彼との約束を守りましたが、その後、多くの生徒がM君の行為と心に気付き、その輪がクラスから学年へ、そして学校全体に広がっていきました。“気付いたらゴミを拾い、汚れていると感じたらきれいにする。みんなが汚さない、物を大事に扱う。そして人を大切にする。”といったことが自然に意識される学校になったことを覚えています。
数十年経った今でも、M君のこの言葉を噛みしめています。褒め言葉や見返りを一切求めない純粋で真摯な想いと振る舞いが、教師として、人として、自分の中にあるかと問いかけています。(平成22年6月投稿)
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