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平成21年 (2009年) 3月 24日

教育ちょっといい話 第1回

教育長 藤井 俊彦

子どものちから

 

子どもたちの素直で、やわらかい発想にはしばしば驚かされる。

 

4月の終わりに、山口南総合支援学校を訪れた時もそうした場面に出会った。

 

本県では、今年度から、県内12校の盲・聾・養護学校を全て「総合支援学校」に校名変更し、原則5障害に対応する特別支援学校として本格的にスタートした。それに伴い、今年の3月まで聾学校だった山口南総合支援学校には、新しく高等部に知的障害の生徒9名が入学し、聴覚障害、病弱の生徒と合わせて15名の新1年生が、障害の種別を超えて、ともに学校生活を送り始めた。

 

私が学校を訪問したのは、その高等部の1年生が、全員で近くの「陶ヶ岳」に登山をした日だった。ちょうど、下山してきた生徒たちが体育館の前に集まり、談笑しながら仲間の帰りを待っているところだったが、みんな生き生きとした表情で、自然に会話を愉しんでいるように見え、生徒同士のコミュニケーションを妨げるものは、どこにも感じられなかった。

 

その点を教員に尋ねたところ、「生徒たちは、歓迎行事の自己紹介や生徒総会の話し合いの仕方を自発的に考えるなど、当初から『理解し合おう』という意識が強かった。さらに、学校生活が始まると、体育や給食、部活動、行事などに全員で取り組み、お互いの関わりを重ねる中で、ゆっくり大きな声で話すこと、身振り・手振りを加えること、時には聴覚障害の程度が比較的軽い生徒が通訳をすることなど、それぞれの生徒の特性に合ったコミュニケーションの方法を自分たちで見つけ始めた。」という説明が返ってきた。

 

大人は「手話が覚えられるか、筆談はできるか」というような既成の概念にとらわれがちだが、「わかり合いたい」という子どもたちの素直な気持ちから生まれた力は、1ヶ月足らずのうちに、障害の壁を超え、お互いのコミュニケーションの方法を見つけ出していた。

 

また、先日、山口南総合支援学校で運動会が開催され、記念すべき第1回大会を飾る初めての試みとして、高等部全員で「組体操」に挑戦した、という知らせがあった。

 

組体操は、チームワークが何よりも大切だが、練習の中では、知的障害の生徒が聴覚障害の生徒に対して、先生からの指示や太鼓の合図を指さしや肩を叩いて伝えたり、お互いに演技を見せ合ったり、苦手なポジションを変わったりといった生徒同士の間に一歩進んだ「学び合い」が生まれていった、という。

そして、運動会当日は、高等部23名の息の合った演技が披露され、心と力を合わせて一生懸命演じる生徒たちの姿に、保護者の願いと学校の思いとが重なって、会場全体が大きな一つの感動に包まれ、「異なる障害の子どもたちの間で、うまくコミュニケーションをとれるだろうか、落ち着いた学校生活が送れるだろうか」という不安を持っておられた保護者の方々から、「目指すものは、これなんですね。」という声も聞かれたそうだ。

 

山口南総合支援学校の生徒たちが見せてくれたように、子どもたちは、障害に関係なく、誰もが大きな力と可能性を秘めている。その力を十分に発揮できるような環境を整えたり、子ども同士の主体的な学び合いが生まれる仕組みをつくったりすることこそ、私たち教育に携わる者の責務であると改めて感じた出来事だった。

 

教育委員会月報8月号(文部科学省発刊)

 

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