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山口県立岩国総合高等学校 校長 伴 浩一
十数年前、「アシカとセイウチとトドはどう違うのかわからないのだけれど、誰かわかる人いるかな?」と日頃抱いていた疑問を授業中、ふと口にしたことがある。その後この疑問には触れずにいたのだが、長期休業後、ある生徒が進路指導室の私の許にボールペンで手書きのレポートを持ってやって来た。そのB4用紙30枚ほどのレポートを見ると、表やイラストを使い、アシカ・セイウチ・トドの違いが様々な視点から総合的にまとめられており、生徒はそれをテキストにして、やや専門的と思われる内容を丁寧に説明してくれた。
先生と生徒の立場が海獣については入れ替わったわけだが、「生徒」の私はというと、この補習を聞いた当座はわかったつもりでいたものの、「先生」の努力は結局水泡に帰した。私はせっかくの講義に報いることができなかったのを悔い、同じ疑問を口にしなくなった。内心、甲斐性なしの「生徒」だということを認めたくなかったのかもしれない。
その後、大学の生物系に籍を置いた「先生」から年賀状を受け取った。そこには、「ゼミの皆から海獣オタクと呼ばれています。」と、屈託のない文字が並んでいた。彼女は「生徒」とは違っていた。私は初めて、肩の荷が下りた気がした。
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