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山口県立田布施工業高等学校 校長 山本 達也
本校では毎年11月下旬にロードレース、いわゆるマラソン大会を実施している。男女とも約9kmの距離を、設定した時間内で走る。設定時間をオーバーした者は再レース、という厳しいものである。私の中学、高校時代の経験から、生徒たちは本番が近づくにつれ憂鬱な気分になっていくだろうな、なんとか励ませないものかな、と思っていた。
当日、開会式の挨拶で、生徒に走ることの楽しさを訴え、積極的に参加してもらおうと、次のことを伝えることとした。
1 世の中には走ることを苦痛と感じる人と、楽しみと感じる人がいる。
1 君たちには、楽しみと感じる側の人になって欲しい。
1 そのためにはどのような楽しみがあるかを知る必要があるが、次のようなことが考えられる。
・汗をかき、疲れてくる中、自分の限界に挑戦する快感
・設定した距離を走りきった、という達成感
・走り終わった後、徐々に体力が回復し、エネルギーが充満してくる快感
・御飯がおいしくなり、健康が増進される快感など
1 この他にもあるはずだから、走りながら探してみよう。見つけたら教えて欲しい。
ここで示した楽しみは、多少こじつけのようではあるが、生徒が考えたり見つけたりするヒントにはなると思った。
さて、レース後、ある生徒が自分で見つけた楽しみを報告に来た。
「走りながら、風を感じたんですよ。」
「・・・。」
私が示した楽しみは、何と物欲的・実利的なことか。生徒が教えてくれた楽しみは、何と詩的で優雅なことか。実際に走ることが好きな人たちは、私とこの生徒のどちらを支持するだろうか。改めて生徒に教えられることの多さを感じた一日であった。
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