国語科指導事例
単元名 古典を味わおう
〜「おくのほそ道」(松尾芭蕉)〜 (東京書籍・3年)
1 この単元で育てたい言語能力
 文章を読んで、人間、社会、自然などについて考え、自分の意見を持てるようになる。
2 この言語能力を取り上げた理由
 古典を読むという行為を通して、時代を越えた普遍的な価値を見出すことができる。人間の真実の姿、人間と社会との関わり、自然の豊かさ、あるいは、言葉が表出する世界の見事さ、といったものに触れることができる。そのことによって、現代の社会や今の自分を改めて見つめ直す機会を得ることもできる。
3 生徒の実態
 中学3年生の2学期となると、自分の進路について考えるとともに、将来のことや社会へと目を向けるようになる。そういった中で、国語の授業において、人間、社会、自然などについて考え、自分の意見を持てるようになることは、大変有意義なことである。古典の学習については、1・2年生で基礎的な知識をある程度身につけているとは思われるが、音読を中心に据え、基礎的な知識の定着を図るとともに、古典を身近なものに感じ、古典に親しむ態度も培いたい。
4 教材
 教科書(東京書籍3年)では、旅程図・冒頭文・平泉・あとがきという構成になっているが、これに立石寺と出雲崎の俳文を加え、芭蕉の生き方や人生観に迫らせたい。
5 指導計画
時間 学習内容 ね ら い
芭蕉の旅の概観
「おくのほそ道」旅程図を概観し、芭蕉の旅の目的を予想させることで、興味関心を持たせる。
冒頭文
芭蕉の旅に対する考え方や旅にあこがれる思いを表現の特徴に即して読み取らせる。
平泉
地の文と俳句の言葉との関連に着目させ、高館を訪れ、涙を落とした芭蕉の心情に迫らせる。
立石寺(閑さや・・)
立石寺の寂莫とした情景を想像し、俳句ができるまでの芭蕉の推敲の跡をたどらせる。
出雲崎(荒海や・・)
この句に潜む芭蕉の人間へのまなざしを読み取らせ、それに対する自分なりの考えを持たせる。
旅の終わり・辞世の句
再び芭蕉の旅の目的について考えさせるとともに、芭蕉の人生観について感想を書かせる。
6 本時の展開
(1)第1時  旅の概観と旅の目的の予想
1 本時のねらい
 「おくのほそ道」の旅の行程を地図でたどり、要した日数や距離、訪れた場所、当時の生活など、いろいろな情報をもとにして芭蕉の旅の目的を予想させることで、興味関心を高める。
2 本時の流れ
学習内容および活動 評価と教師の手立て
 教科書の「おくのほそ道」旅程図を見て、各自の知っている地名や知っている事柄を発表する。
 ワークシート1に芭蕉の旅の目的を自分なりに予想して書き、発表し合う。
お互いの発表をもとに、芭蕉の訪れた場所についてイメージを膨らませ、芭蕉の旅に興味を持つとともに、芭蕉の旅の目的を予想しようとしている。
(関;ワークシート
旅の距離や日数、当時の旅のこと、芭蕉の年齢など、情報を提供し、グループで話し合わせる。
(2)第2時  冒頭文の音読と理解
1 本時のねらい
 芭蕉の旅に対する考えや思いを表現の特徴に即して読み取らせる。
2 本時の流れ
学習内容および活動 評価と教師の手立て
 冒頭文を仮名遣いや助詞の省略など、古文の特徴に注意しながら、繰り返し音読する
 芭蕉の旅に対する考え方や旅にあこがれる気持ちを文章の表現や俳句から具体的に理解する。
 本時の学習を振り返り、ワークシート1に旅の目的や感想を追加する。
音読を通して、古文の特徴に気付いている。友達と協力して音読の練習をしている。
(言・関;音読の取組み
音読のつまずきを取り上げて、学級全体で古文の特徴を確認する。
冒頭の対句表現から、旅=人生といった芭蕉の考え方や「古人」にあこがれる思いを読み取っている。「漂泊の思ひ」について、具体的に説明できる。旅支度について具体的に列挙できている。
(読;学習ノート
芭蕉の考え方について自分なりの感想を書いている。
(関;ワークシート
(3)第3時  平泉の文章の音読と理解
1 本時のねらい
 地の文と俳句との響き合いに着目し、高館を訪れて芭蕉が目にしたものや思い浮かべたものを想像し、「時のうつるまで涙を落としはべりぬ」という芭蕉の心情に迫らせる
2 本時の流れ
学習内容および活動 評価と教師の手立て
 平泉の文章を古文の特徴に留意して音読する。
 俳句の言葉と地の文の言葉を比較検討することを通して、芭蕉の眼前の情景と芭蕉の想像したことをとらえる。
「兵ども」について教師の説明を聞く。
 芭蕉の思いを自分なりの言葉で表す。
 学習を振り返り、ワークシートに記入する。
声に出して、正しく音読している。音読を通して、語感を磨いている。
(言・関;音読の取組み
板書のカードで切れ目を分かりやすくして、全員が正しく読めるようにする。
言葉の比較について、自分なりの考えを述べるとともに友達の考えもよく聞いて検討している。
(関;グループ活動の取組み
代表のグループの考えをもとに意見を交換させる。歴史的な背景を説明し、芭蕉の心情に迫る手がかりとさせる。
芭蕉の心情を自分なりの言葉で書いている。
(読;学習ノート
本時の感想と旅の目的を追加して記入している。
(関;ワークシート
授業風景1 授業風景2
意味の切れ目に注意して音読させるためのカード。助詞の省略に気付き、正確な音読ができるようにしたい。 4人1組のグループで、地の文の言葉を「夏草」「兵ども」「夢の跡」の3つのグループに分けている。
授業風景3 授業風景4
各グループで使った小さなボードと磁石付きカード。これを渡すとみんなやる気満々の顔に変わった。 いちばん早くグループ分けができた班のメンバーが黒板のカードを使って並べてている。
授業風景5 授業風景6
代表の班の分け方について、学級全体で吟味しているところ。 他の班の分け方について、疑問や意見もたくさんで出てきた。
授業風景7 授業風景8
この時間を振り返り、ワークシートに、授業の感想や芭蕉の旅の目的を書き込んでいる生徒。 授業の終末における板書。「時のうつるまで涙を落とし」た芭蕉の心情に迫る意見も出てきた。
(4)第4時  立石寺(閑さや岩にしみ入る蝉の声)の文章の音読と理解
1 本時のねらい
 立石寺の寂莫とした情景を想像し、俳句ができるまでの芭蕉の推敲の跡をたどらせる。
2 本時の流れ
学習内容および活動 評価と教師の手立て
 立石寺の文章を古文の特徴に留意して音読する。
 俳句の初案A・再案B・三案Cを比較して、違いを発表し合う。
 学習を振り返り、ワークシートに記入する。
声に出して、正しく音読している。音読を通して、語感を磨いている。
(言・関;音読の取組み
A・B・Cの違いやそれぞれのよさを、地の文の言葉に結び付けて説明している。
(読;学習ノート
本時の感想と芭蕉の旅の目的を追加して記入している。
(関;ワークシート
*参考資料  立石寺の学習プリント
(5)第5時  出雲崎(荒海や佐渡によこたふ天河)の音読と理解
1 本時のねらい
 この句に潜む芭蕉の人間へのまなざしを読み取らせ、それに対する自分なりの考えを持たせる。
2 本時の流れ
学習内容および活動 評価と教師の手立て
 出雲崎の文章を古文の特徴に留意して音読する。
「銀河ノ序」の文章を読み、遠流の憂き目を見た人々への芭蕉の思いを読み取る。
 学習を振り返り、ワークシートに記入する。
声に出して正しく音読している。音読を通して語感を磨いている。
(言・関;音読の取組み
文章の後半の「たましゐけづるがごとく・・・そぞろにかなしびきたれば」という思いに至った理由を考えさせる。 そのとき、夜、波の音、本土と佐渡によこたわる天空の銀河、といった情景の効果にも気付かせる。
自分なりの考えをまとめている。
(関;ワークシート
*参考資料  出雲崎の学習プリント
(6)第6時  旅の終わり・辞世の句
1 本時のねらい
 これまで学習してきた文章をもう一度読み返すとともに、辞世の句「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」から芭蕉の人生について感想をまとめさせる。
2 本時の流れ
学習内容および活動 評価と教師の手立て
 これまで学習してきた、冒頭・平泉・立石寺・出雲崎の文章や俳句をグループで読み合う。
 芭蕉の辞世の句を読み、芭蕉の生き方について自分なりの考えを持つ。
 学習を終えての感想をまとめ、友達と交換して読み合う。
友達と交代で読んだり聞いたりすることで古文の音読に慣れようとしている。
(関;グループ活動の取組み
芭蕉の一生について補足説明をして、芭蕉の生き方やこの句に込めた思いを想像する手がかりとさせる。
自分なりの言葉で感想をまとめ、進んで友達と読み合っている。
(関;ワークシート
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