実践
小学校算数: 図形についての感覚を豊かにする  1年
〜ものの形を認めたり、特徴をとらえたりすることができる〜
1 学年及び単元名
第1学年 いろいろなかたち
2 単元のねらい
身近な立体についての観察や構成など活動を通して、図形についての理解の基礎とな る経験を豊かにする。(※単元の評価規準表
3 単元の設定について
 本単元では、身の回りにある基本的な立体について形を認め、形の特徴を実感としてつかむことができるようにすることをねらいとしている。
 ほとんどの児童は、幼児期に積み木遊びやブロック遊び、折り紙遊びなどを通して、いろいろな形に触れてきている。しかし、ひとりひとりの生活経験は様々であり、活動も異なり、形に対するとらえ方も異なる。本単元で、そのような児童の生活経験を掘り起こしながら、個や小集団の中で算数的活動に十分浸らせることにより、図形についての感覚をより豊かにすることができると考える。
 小学校低学年の時期の児童は学びの対象にかかわるときの様相として、「やってみたい」「おもしろそうだ」という情意面が問題解決の意欲を支える要因であり、「すぐわかる」「できない」という直感や思いつきで行動を決定することが多い。また、問題を理解するとき、聞いたり見たり触れたりする活動を通して、既習内容との違いや生活経験とのつながりに気づいていく時期でもある。だからこそ、体全体を使って立体に触れさせる時間を設定したり、生活科や図工科の活動とのつながりをもたせて、児童の生活の中に活動を取り込んだりすることが、大切だと考える。(※事後の活動アイディア)
 本単元における算数的活動とは、箱や缶で身の回りの物を構成したり、積み木でタワー作ったりしながら立体の特徴をとらえる活動である。また、ブラックボックスに入った積み木の形当てゲームや面の形を写す活動を取り入れ、色や形や材質などの形以外の属性を捨象して、立体に親しむことができるようにする。それらの活動において、児童の発言や行動などに対して、具体的な視点を与えたり、数学的な価値付けを行うことも算数的活動を成立させる上で必要なことである。
 以上のことを考慮し、活動を楽しみ、活動をする中での気づきを大切にして、図形に対する豊かな感性をもつ算数好きな児童を育てたい。
4 指導計画(4時間)
箱や缶で好きな動物や乗り物を作ろう・・・1時間★(※本時案 1/4
高いタワーを作ろう・・・・・・・・・・・1時間
手探りで形を当てよう・・・・・・・・・・1時間
積み木を写して絵をかこう・・・・・・・・1時間
5 指導事例
(1) 学習前の投げかけ
 はじめに「みんなに質問。好きな動物は何?」とたずねる。動物園にいる大きな動物や学校で飼育しているウサギやハムスターなどいろいろな答えが返ってきた。
 「では、好きな乗り物は?」とさらにたずねると、さっきよりも大きな声で男の子が答えた。「飛行機。飛行場で見たボーイング。」バス見学のあと、飛行機の絵をかいたばかりだから、力が入っている。他にも新幹線や船などもでた。「みんな好きなものたくさんあるんですね。それを箱や缶で作った人がいるよ。」「え、誰のこと?」というように回りを見る子どもたち。
 子どもたちがざわめく中、にこにこしていると「あ、先生?」とカンのよい子が気づいた。「そう、よくわかったね。」と作品を戸棚から出した。「さあ、何でしょう?」「きりん」即答である。首が長いからキリン。「よくわかったね。うれしいな。みんなはすごいね。」とほめる。次の自動車もすぐにわかった。「 僕も作りたい。」「わたしも。」という声が聞こえ始めた。「みんなも作ってみる?」と投げかけるまでもなく、「作りたい。」と笑顔が光っていた。『箱や缶で好きな動物や乗り物などを作ろう』と板書した。
 ここで、箱や缶の形の特徴に気づくように、条件を出しておくことを忘れないようにする。<箱や缶(筒)だけで作ること><箱や缶はそのままの形で使うこと>である。そして、<材料は自分で用意すること>を伝える。もちろん事前に保護者に学習の意図や材料集めの協力を要請しておく。本実践では学級通信を利用した。
(2) 授業の流れの概略
箱や缶で好きな動物や乗り物を作ろう
 材料集めを子どもたちに投げかけてから1週間後、1時間目の授業に入った。子どもたちは早くから自分のロッカーに材料を入れて、早く作りたいと待っていた。材料集めを積極的にしてきた子どもたちをまず十分ほめ、評価したい。
 児童が準備してきた箱や缶をいくつか取り上げ、全体の場でその形に着目させることから始めた。お菓子の入っていた箱を見せると、お菓子の種類や味、値段まで知っているので驚いた。「今日は形を心のカメラにうつしてほしいな。」と言って、いろいろな向きから箱の面の形を見せて、大きさの違う『しかく』でできていることに気づかせた。「心のカメラの準備をしてください。この形は?」と尋ねながら、空き缶の底や側面の特徴を確認していった。「つるんとしている。」「ぺっちゃんこ」「むこうが見える。」など、さわった感じや見た目から特徴や機能を表現できたら評価し、全体にも広げるようにしたい。
 ここで、早速、本題に入る。「この箱や缶などを使って、何を作りたいですか?」
 すでに決めている児童や何を作ろうか迷っている児童もいる。迷っている児童には手をあげさせて、製作を開始した。作るものが決まらない児童には、児童が用意した箱や缶なの材料をいろいろな配置で一緒に組み合わせて、どのようなものが作れそうか考えさせたい。その時、教師が作った乗り物や動物を参考にもさせた。事前に投げかけておいたこと、そして少人数学級であることもあって、迷っている児童は少なかったので、製作方法
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の指導に時間をかけ、その中での子どもの発言に耳を傾けることができた。
 ある児童は、ウサギの耳と足にラップの芯を利用したいが、数が足らないと相談してきた。よく聞くと、「ラップの芯を切ると、短くなる。けれど形が同じ(筒)になるから、切りたい。」と言っている。
「ところでどこのあたりで切るの?」と尋ねると、予想した中央部分とは違うところを指さしている。となりで見ていた別の児童が、「そこだと足の長さがちがって倒れるかも。」と言った。そこで、ラップの芯の中央部分で切ることになり、きちんと立つウサギが完成した。筒の形の特徴や機能をとらえたよい発言だと思った。このような形の特徴や機能を意識した発言や作ろうとしているものと材料の形の整合性から児童の感性の豊かさを見とりたい。


※本時案
※授業記録
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高いタワーを作ろう
「箱やかんの形を使って、こんな素敵な作品ができたね。まるで『かたちはかせ』みたいだね。」できた作品をみんなで眺める。「形のことに詳しいみんなに相談なんだけど…。」と積み木の大きな箱を持ってくる。教室にあった色つきの小さな積み木とは違う大きな積み木に歓声があがった。 「この積み木を使って、高い高いタワーが作れるかな?」タワーの意味がわからないと言う児童もいたが、下関市の「海峡夢タワー」の話をしたら、すぐにイメージができたようだ。この活動は、3人グループで行った。3人にしたのは、全員が積み木を手に取り、活動に参加できるからである。また、話し合いもすることができるので、その内容から高さや長さを意識した発 言や行動を見取り、評価できると考えたからである。本実践では、同じ積み木でも向きによって高さや安定感が変わることに気づいた発言や行動が見られた。また、重ねる積み木の面の大きさにも気をつけている様子も伺えた。時間が許せば、グループ間でタワー作りの工夫を紹介し合い、タワー作りの過程を表現できたことも評価の一助としたい。
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 本学級では、グループ同士の交流の後、互いのよさを取り入れて、もう一度タワー作りを行うことができた。
手探りで形を当てよう・積み木を写して絵をかこう
 形以外の属性(色、大きさ、材質など)にとらわれずに、ものの形に着目し、その特徴をとらえる力をさらに伸ばすために、ここからは「個から全体」「全体から個」という流れの中で学習活動を組み立てた。
 手探りで箱の中の積み木の形を当てるゲームを通して、一人一人の児童がどのように立体の特徴を認識しているのかを把握した。「どうして、その積み木だと思ったのか」という理由を尋ねることによって、児童は言葉で立体を表現しようとする。その表現の中から、立体の特徴を明確化することが支援となる。本学級では、正し
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い物を選ぶことができていたので、立体の特徴は認識できていると判断した。しかし、その特徴をうまく表現することがむずかしい児童がいたので、キーワードを提示して支援した。「たいら」「まるい」「かどがある」「ころがる」の4つである。
このキーワードを使うようにすると、特徴を言葉で表現することができた。形当ての後、いくつかの積み木を分類させる時も、立体の特徴を明確化・一般化するために、このキーワードを使って分類の観点として用いた。
 積み木の面を写して、絵をかく活動は個人で行うのだが、活動中は自由に友達の所に行ってよいことにしたので、交流をもちながら、次々に作品が出来上がっていった。「ぶどう、おにぎり、窓」といった単一形の絵から車などの複合形へと変化していく児童もおり、交流のよさを感じた。
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 児童の作品
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6 授業を振り返って
 活動を多く仕組んだ学習だったので、児童は楽しみながら、学習していった。私自身、「形」という言葉を連発していたようにも感じるが、「楽しい活動」を「算数的活動」にしたいと考え、このような取り組みとなった。これからの図形学習の基礎となる感性を養うことになったとは断言できないが、感性は人が育てていくものだとすれば、本実践で、何か一つでも感性のかけらが残ってくれればうれしいと思う。
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