国語科指導事例

中学校1年  書写


 行書の特徴
1 この単元で育てたい言語能力
 漢字の行書の基礎的な書き方を理解し、文字に対する認識を新たにし、国語に対する興味・関心を深める

2 この言語能力を取り上げた理由
 行書は中学校になってはじめて学習する内容である。社会生活に必要な言語能力を育成するという観点からも、日常生活において使用することの多い行書についての能力を身につけることは重要なことである。中学校では、行書の基礎的な書き方の理解から発展し、読みやすく速く書くことができるようにすることがその指導内容となっている。これらの指導を通して、文字を正しく整えて速く書く能力を育てるとともに、文字に対する認識を一層深めることが期待される。
3 生徒の実態
 生徒は、楷書の学習(もっと言えば小学校からの書写の学習)を通して、漢字の字形を整えて書く技能については、自他の実力をお互いに見定めている。したがって、友達と比べてその技能が劣っていると感じている生徒の中には、すでに書く意欲が減退している生徒も見られる。しかし、書くことに対して苦手意識を抱いている生徒も、書かれた文字をじっくりと見て違いを見つけたり、自分なりに感じたことを発表したりすることはできるはずである。このような活動を通して、技能面だけでなく、文字に対する個性的な感覚を認め合うことは、生徒の学習意欲を高めることになるだろう。すなわち、自分なりに文字の特徴を発見でき、それを友達に認められたという喜びや自信が、次に書いてみたいという意欲を喚起すると考えている。

4 教材
 ここで取り扱う教材には、行書の特徴(丸みを帯びる、形や方向の変化、連続、省略、筆順の変化など)が、その楷書と比較したときに生徒にとってわかりやすい漢字を5つ選んだ。そして、教師が提示したそれらの漢字の楷書と行書をじっくりと見たり、それを視写したりすることで、生徒自らがその違いを発見したり、文字に対する意識や感覚を高めたりできるようにした。










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5 本時の流れ
学習内容及び活動 評価(◇)と教師の手立て(■)
1 行書について知っていることがあれば発表する。
2 黒板に掲示された5つの漢字の楷書と行書をそれぞれ書き写し、違うところをメモする。

3 お互いが発見した特徴を発表しあう。


4 行書の特徴をまとめ、本時の授業を振り返って感想を書く。
◇ 自分の既有の知識や体験に結びつけようとしている。(関:発表)
■ 書き写すことを通して気付いた形や書き方の違い、字形に対する感覚の違いなど、些細なことでもいいから、できるだけ多くメモするよう助言する。
◇ 自分なりの気付きや発見を言葉で、あるいは黒板のカードの文字を指差しながら説明している。(言語の知識・理解:発表、ワークシート)
◇ 行書の学習を通して、日本語や文字に興味や関心を持ち、今後の学習につなごうとしている。(関:ワークシート)










(生徒のワークシート)









(生徒のワークシート)

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6 授業後の主な感想
今日は、行書の書き方などが分かって、とても楽しかった。楷書と行書をいっぱい調べてみたいと思った。
字への興味が深まった。行書について少し分かった。
楷書と行書の違いがたくさん分かった。自分が気がつかなかったところとか、みんなが言っていてすごいと思った。自分たちで違いを見つけるのが楽しかった。
一つの字でも、書き方によって字が変わってくる。びっくりした。いつも書いている字が、こんなになるとは驚きだった。
字の形や書くときの方向、丸みなど、字の大切さが、この授業でよくわかった。
今日の授業で思ったことは、そう言えば父さんや母さんとか大人の人は文字を書くときつなげて書くなあということだ。なので、ぼくも速く書けるように練習したい。
文字って、おもしろいなあと思った。
楷書と行書の違いがたくさん見つけられて、すごくうれしかった。
行書はすごく書くのがむずかしかった。



7 授業後の考察
 「万」という字については、「やわらかみがある」とか「ちょっと雑な感じがする」とか、感覚的にとらえている意見が多く聞かれた。このように、文字を比較してじっくりと見ることによって、文字に対する意識や感覚も高められるように思った。
 「花」という字の最後の画のはねる方向が行書になるとなぜ変わるのだろうかと問うと、生徒たちは本気になって考えていた。そして、ある生徒が次の漢字に速く移るためにそうなるのだろうと気付くと、他の生徒もうなずいて感心していた。今回は一文字ずつ視写する活動であったが、こうした生徒の気付きを生かし、連続した文字の美しさを味わわせたり、視写したりする活動にも発展させてみたい。
 書写の授業においても、発見や驚きなど知的な興奮を覚えるような場面をつくり出すことは、学習意欲を高めるうえで大切である。授業後の生徒の感想を見ても、新しい知識を得た喜びを感じた生徒、興味・関心がわいてきた生徒、行書の難しさを感じた生徒、それぞれの言葉には次への学習意欲が感じられる。
 本時は、毛筆書写の行書の学習の導入部分という位置づけで行ったが、字を見る時間と気付きを発表し合う時間をたっぷり取ったので、「習字の授業じゃないような感じがした」という生徒もいた。これは、日頃の授業がマンネリ化している証拠であろう。ときには、じっくりと文字と向き合う時間も確保しなければならないし、生徒の個性的な見方を生かす指導の工夫や、そこから生まれる書く意欲を次の学習活動につなぐ工夫など、評価のあり方も含めてさらに考えてみる必要がありそうに思う。



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