教育ちょっといい話 第9回
美祢市 古屋 道子
今から二十年も前のことである。当時私は中学三年の担任をしていた。学校では、女子更衣室に置いてあるスカートのカギホックが切り取られるという、いやな出来事が連日のように発生していた。いろいろな努力にもかかわらず、何も解決しないまま、とうとう二学期の終業式を迎えた。
学級活動の時間、私はこのことを話題にし、何とか解決しようではないかとみんなに語りかけた。しかし、気まずい空気が漂うだけで何の反応も得られなかった。最後に通知票を渡していると、日頃はおとなしいY君が、突然、通知票を私の手から奪い取ると、「先生はまた僕らを疑うんか!」 と、ものすごい剣幕で食ってかかってきた。こうしてお互いの気持ちが通じ合わないまま二学期を終えてしまった。
教室を後にした私は、こんなはずではなかったと、自己嫌悪と情けなさでいっぱいだった。
階段を降りようとしたとき、後ろからK君がそっと声をかけてきた。「先生!先生って大変なんですね。でも先生、気にしないでください。みんな受験を控えて不安になったり、イライラしたりしているだけなんですから。Y君だってきっと先生の気持ちをわかってくれていますよ。先生、元気出してください。」K君の優しさに思わず涙があふれてしまった。
夕方、Y君のお母さんから、本人が先生に謝りたいと言っているので今から学校へ行かせたいと電話があった。やってきたY君の話を聞くと、彼は入学して間もない頃、盗難事件で疑われ、つらい思いをしたというのだ。その心の傷を三年間も引きずっていたのだ。それを思うとまた、たまらなかった。
あの日のことは今でも忘れられない・・・。
三十六年の教員生活。生徒に教えられ、励まされ、支えられる日々であった。生徒から大きな感動をいっぱいもらった。そのことに今、ほんとうに感謝している
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